創作  ― Entends- Tu les chiens aboyer? ―

[ジャンル] = 創作小話(物語)



    Entends- Tu les chiens aboyer?

                      妙致希林(ももない) 

 

 山犬は狼の子を襲った

 これをほふり喰った

 むさぼり尽くした甘美に酔いしれ

 高らかに尊く吠える

 大気はあわせて泡立つ

 アラハバギの神は黙って見ている

 

 山犬は一つ

 己が命に代えても得難い至福を喜ぶ

 アラハバキの神は萌える

 すべてはアラハバキの神の息の中にある

 山犬はアラハバキの神の息を身に受ける

 突き上げられるにまかせ、事を成す

 

 狼は騒ぐ

 だが山犬が目に捉えらぬ

 牙をとうに失った狼は

 ただ群れるだけに

 アラハバキの神をも見失ったことに、当たれない

 狼はただ目を光らせて身構える

 

 狼は狂わんばかりに身もだえる

 夜天を背にしてその威をつくろい

 闇をたたえる森霊に迫る

 見透かされているのに、気付かぬか気付いてか

 目の光にてあたりを張り詰め、圧しつぶさんとす

 だがアラハバキの神の力に遠く及ばない

 

 山犬は触れられぬ

 小心の山犬などと、狼のハナにもかからない

 狼は熊の仕業と追いかける

 だが熊の影は映ることはない、けっして

 他の仲間を疑るものもいて

 一つとして山野を駆くるもままならぬ

 

 狼が山犬の仕業と知るのは

 日が高く昇り、頼みの夜を失い

 己らの姿を認めることができたから

 照にあつく焦がされ、青深くむせ返り立つ

 草息れが倦んでから

 夜の月のもとで、見る事はかなわない

 

 狼は群れを成す

 狼は山犬を囲む

 口々に唸りを立てるも、とどくことはない

 足踏みもままならず、騒ぐだけに

 山犬は押し黙ったまま見る

 アラハバキの神は皮肉な微笑を口元にたたえる





《2017年01月31日 第二期丸山健二塾H29/1月分提出課題 テーマ 「ご指導たたき台」として提出

 2024年03月11日 Hatena.Blog 掲出用として校正改訂》